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アピール
~ 学校・教育行政・子どもたちを支援する大人のみなさんへ ~
小中登校拒否・不登校過去最多34万6,482人!
どの子も「明日も行きたい」と思える学校づくりのために
学校・教育行政・子どもを支援する大人たちが力合わせできることを共に考えましょう
2025年3月 NPO法人おおさか教育相談研究所(略称:教育相談おおさか)
私たちは退職教職員・現職教職員で構成する「登校拒否・不登校、社会的ひきこもり」の相談・支援団体です。1985年以来39年の歴史を持ち、NPOになって12年目です。今までに総計4万3,000件の相談支援をおこなってきました。現在は主に年間約600件の相談支援と、地域に出かけて地域の方々と一緒に「講演と個別相談会」にとりくんでいます(11年間実施。大阪府内57箇所2,590人参加、個別相談307件)。またコロナ禍から「夏休み明け不登校無料電話相談」を実施。5年間で132件の相談を受けました。最近は学校などの研修会にも参加し、教職員の個別相談支援にもとりくんでいます。不登校の子どもたちは「不登校にならなくてすむような学校や社会に改善してほしい」と願っています。どの子も「明日も行きたい」と思える学校づくりのために共に考えましょう。
1 不登校や校内暴力・いじめの問題は、もはや一部の子どもたちの問題ではありません
① 小中学校の不登校児童生徒は11年連続で過去最多の34万6,482人!
昨年11月文部科学省は、2023年度の小中学校の不登校児童生徒が11年連続過去最多の34万6,482人となったことを発表しました。長欠児童数と合わせると49万3,440人になります。この数には部分登校・別室登校など学校には登校しているけれど教室に入ることができない子どもや、フリースク―ルや支援センターなどに通っている子どもの数は入っていません。合わせると1割近い子どもが教室に入りづらい・学校に行きづらい状態にあります。高等学校の不登校者数も6万8,770人で、中途退学者は4万6,328人となっています。ほとんどの不登校の子どもたちには具体的な支援・援助も届いていなくて、学ぶ権利や遊び育ち合う権利が奪われたままになっています。
② 小中校内暴力過去最多10万3,626件、いじめ過去最多71万1,633件、小中高生自殺527人
文部科学省は同じく11月に、校内暴力・いじめについても発表しました。校内暴力は、過去最多の10万3,626件になり、対教師暴力やその低年齢化が深刻な問題になっています。いじめの問題はSNSによるいじめも多く、その実態については把握もなかなかできません。また厚生労働省は今年1月に、2024年度の自殺者数について、小中高生の自殺が527人で過去最多となったと発表しました。暴力やいじめによる学校や学級の「荒れ」、その中での子どもたちの心身の傷つき、自殺未遂者の数などは表面に現れないため、この過去最多の数は、氷山の一角であることがわかります。
③ 不登校や校内暴力・いじめの問題は、日本の大きな社会問題です
多くの子どもたちが、自尊感情を踏みにじられ、「死」をも考えるような生きづらさの中にいます。不登校や校内暴力・いじめの問題はもはや一部の子どもたちの問題ではなく、日本の大きな社会的問題です。私たち大人には、子どもの権利と未来を守るために、学び合い・話し合い、力を合わせて今できることの一つひとつに真剣にとりくんでいくことが求められています。
2 どの子も「明日も行きたい」と思える学校づくりのために
① 子どもたちの願いが届く「30人以下の少人数学級」を早急に実現してください
・コロナ禍の分散登校の時、不登校や不登校気味の子どもたちの中には15人から20人になった少人数のクラスに登校することができた子どもたちがいます。その子たちからは「教室に入ってみんなと過ごすことができた」「先生に話を聞いてもらえた」と喜びの声がいくつも聞かれました。
・少人数学級を要望する父母・市民の運動は全国各地に広がり、実施している行政は次々と増えています。少人数学級が実現している学校では、子どもたちから「自分の意見をいうことができる」「勉強がよくわかる」という声が上がり、先生たちからも「きめ細やかで豊かな指導ができ、業務の軽減にもつながる」と喜びの声が聞こえます。「2026年度をめどに、公立小学校全学年で25人学級をめざす」という自治体も出ています。
・昨年8月に開かれた中央教育審議会では、40年ぶりに少人数に取り組んだばかりだと、今後の少人数学級の実現には全く触れず、「先生の持ち時間数削減も行わないこと」と発表しています。少子化の今こそ、少人数学級実現のチャンスです。今すぐ、全国での小中学校30人以下学級を実現してください。
② 先生の未配置をすぐになくしてください
・全日本教職員組合は12月に「34都道府県11政令都市で、教職員の未配置が4739人である」と実態調査の結果を発表しました。大阪でも、1つの学年で3人の先生が病気休暇に入っているとか、担任の先生が1年間で4人も代わったとかいう話も珍しくありません。「担任の先生がいない」この深刻な状態への対応は学校任せになっています。そのため学校内でカバーし合い、次々に他の先生たちに負担がいくという悪循環となって学校全体の疲弊へとつながっています。まず、この未配置問題を今すぐ解決してください。
・もっとも深刻な問題は「担任の先生がいない」時、困難を抱えた子どもへの大事な支援が後回しになってしまうことです。また文科省の不登校支援のためのCOCOLOプランにある「校内教育支援センター」についても、正規教員が配置されている学校はほとんどなく、不登校や発達障害などで支援を必要とする子どもたちへの支援もやはり後回しにされているのが現状です。「校内教育支援センター(別室)」には正規の職員を配置し、何よりも困難を抱えた子どもたちに行き届いた支援がされるよう先生を確保してください。病気休暇で休んだ先生の後にはすぐに代わりの先生を配置できるよう早急に抜本的な対策をとってください。
③ 子どもたちの学ぶ権利を保障するため、教員定数削減をやめて、先生を増やしてください。そして支援の必要な子どもに必要な支援が行き届く学校にしてください。
・現政権は「先生を増やしてほしい」という父母・教職員の強い願いに背を向け、2025年度予算案に9,000人近い教員定数の削減を盛り込んでいます。この教育の危機的状況にとんでもない話です。
・文部科学省は昨年末、2023年に病気休暇をとった公立学校教員が13,045人、そのうち精神疾患で休暇をとった教員は過去最多の7119人になったことを発表しました。学校は子どもたちも先生たちも大きな生きづらさの中にいるのです。先生たちが病気にならないように、少人数学級・定数増を実現してください。
④ 「管理と競争そして詰め込み」の学習指導要領を見直してください
不登校など今の子どもたちの生きづらさの根本原因は「管理と競争・詰め込み」の学習指導要領にあります。学習指導要領の改訂に向けて、「明日も行きたい学校」を望む不登校の子どもたちの願いを大切に、学校や教育行政や私たち大人が、文部科学省・中央教育審議会に声を届けましょう。
1)「学校はつめつめでしんどい」・・・子どもたちを追い立て詰め込む教育をやめてください
・授業内容過積載(カリキュラムオーバーロード)とは「授業の内容が過多になっていて学校や教師児童生徒に過大な負担がかかっている状態」のことで、今まさに学校はこの状態に苦しんでいます。
・今学校は週5日制なのに、6日制の時と同じコマの授業をしています。小学校では、1年生もオール5時間授業、高学年はオール6時間授業と1週間みっちりで授業時間がオーバーしています。授業の内容も例えば外国語で学習する単語は以前は中学校までに1200単語だったものが2500単語とまさに倍増となる内容オーバーです。教科書はどの教科もページ数が大幅に増えています。
・業間の休憩時間はほとんど5分間。小学校でも「教科担任制」が持ち込まれている学校もあり、少しの隙間にやっていた補習などの時間も取れずまさに「つめつめ」のがんじがらめです。
・文部科学省は「学習指導要領」の改訂にあたり「授業時間数については減らさない」と発表しました。それどころか「1コマ45分を柔軟に。1コマ40分授業で『午前中5時間授業も可』」とまで言っています。これ以上学校現場を追い詰めることはやめてください。まず授業時数と授業内容を減らし子どもたちや先生たちのカリキュラム過積載による過大な負担を減らしてくだい。
2)「どこにも私の居場所がない」・・・子どもたちの自主性・話し合いが大切にされる学校に
・授業内容過積載のために、コロナ禍に最初に削られたのは「特別活動の時間」でした。そして今もそのまま「特別活動」時間を減らし、いろいろな行事をやめてしまった学校もあります。
・授業時間確保のために「特別活動の時間」を削ることは間違っています。子どもたちは、話し合い活動や、力を合わせ行事を成功させることで「自治」の力をつけていきます。試行錯誤の中で自分達のことは自分達でやり遂げる力をつけていきます。
3)「友だちのテストをめくる紙の音が怖い」・・・今すぐ学力テストをやめてください
・「学力テスト」は、結果が自治体や学校ごとに公表され、子どもと学校が序列化され競争に追い立てられています。半数近くの学校では「過去問指導」など特別な事前指導が行われています。
・昨年11月結果公表については、全国の自治体から見直しの声が多く出ました。文科省自身も公表方法の見直しを検討中です。この際、悉皆での「学力テスト」そのものを見直してください。
・新学年の始業式から学力テストに向け「練習テスト」をする学校も多く、このことが不登校の原因のひとつともなっています。新学期を「学力テスト」で始めるのではなく、緩やかで楽しいスタートにすることで、子どもたちの心も落ち着きます。
4)子どもたちの実態に合わせた教育課程づくりを
・どの子もよくわかる授業を工夫し、時間で追い立てることなく、ゆっくり楽しく学び合える教育課程を工夫してください。
・学校生活の中にゆとりと会話を取り戻してください。雑談をしたり作文や日記を読み合ったり、それぞれの思いが豊かに交流でき、学級行事を楽しむなど信頼関係を深めてください。
・子どもたちにとって不必要なきまりはないでしょうか。子どもたちと話し合うことも大切です。
・進路指導については、いろいろな情報を提供するとともに、子どもたちの気持ちを十分に聞き納得のいく進路選択ができるよう焦らずに援助してください。
3 子どもの尊厳を大切にした登校拒否・不登校支援を進めていきましょう
① まず、安心して休むことが大切です。その上で子どもの尊厳を大切にした支援をしましょう
1)少しでも学校とつながっている子どもへの支援は、そのつながりを大切にしましょう
・本人が今一番望んでいる登校形態をとり見守ります。子どもの自己選択を保障し尊重します。
・誰かと一緒なら登校できるという場合は、本人の願いを大切に、安全に登校支援を続けます。
・学校内の「校内支援センター」や「別室」などでなら登校できる場合は、「安心してここにいてもいい」と感じられる場所を保障し、子どもが自分のペースで学ぶことや、願いや想いの出せる 安全・安心な空間の中で心のエネルギーをためられる場所をめざします。
2)不登校の期間が長くなっている場合は、SC・SSWなど相談機関と力を合わせ支援してください
登校はしていなくても子どもたちは成長をしています。安心安全な生活の中で子どもたちが学校や社会大人たちへの信頼を取り戻すよう支援を続け、自ら立ち上がる時を待つことが大切です。
3)不登校や行きしぶりの子どもたちが「再登校」しやすい学校にしてください
再登校時には再登校時の特別な支援が必要です。子どもたちは新学年や新学期が始まる機会などに、自分の力で立ちあがろうとします。再登校時の子どもたちは大変な無理をしています。子どもたちには安心な環境を保障し、焦らずにゆっくりと立ち上がっていくことを見守りましょう。
4)学校内外の十分な支援を受けていない13万4,217人の子どもの継続的な支援をしてください
十分な支援を受けていない子どもたちの継続な支援とともに、全く支援との接点がないとされる1万5,000人の子どもたちへの支援を急ぐことが大切です。SCやSSW・行政とも手をつなぎ、本人や親の尊厳を大切に考えながら、親子の孤立を防ぎましょう。
② 学校と、支援に関わるみなさんとの連携を大切にしましょう
不登校生の中には、教育支援センターやフリースクール・若者の居場所や相談機関などで安心して学び生活している子どもたちもいます。学校外の支援に関わるみなさんに任せっぱなしにせず、連携を大切にしてください。その場合、本人の意思を尊重しどのような連携がふさわしいかよく相談して、互いの信頼を深めるための連携をします。
③ 不登校の子どもを持つ親の支援も大切です
1)文科省の「元年通知」は、親の負担をより重いものにしました
文部科学省の不登校支援の基本は「不登校児童生徒への支援は『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に見据えて、社会的に自立することを目指す(元年通知)」となっています。この通知は不登校の親への責任をさらに重いものにしました。子どもは自分が住む近くの学校で、無償で教育を受ける権利を持っており、それは保障されなければなりません。
2)わが子の不登校で苦しみ悩んでいる親を支援することは、不登校支援の大切な柱です
・親が定期的に相談することのできる専門家のいる相談機関をどの行政にも設置してください。
・親同士が励まし合い交流する親の会への援助を進めてください。
・経済的負担をへらす手立てをとってください。子どもの支援のために仕事を変えたりやめたりする親もいます。また教材費や給食費、また相談機関への交通費、フリースクールに関わる費用など経済的な負担も大きいものがあります。経済的負担のほとんどが親任せになっていて、その実態すら教育行政は把握できていません。親・学校の先生・支援者・行政が手を取り合い不登校の子どもの権利を守るために力を合わせましょう。